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AoiMoeのおはなし

アイカツロス症候群のリハビリ活動二次創作

最後のバースデイ ~ 解説

最後のバースデイ アイカツ! アイカツ!二次創作 作品解説

本編はこちら:

aoimoe.hatenablog.com

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最後のバースデイ

最後のバースデイ アイカツ! アイカツ!二次創作
最後のバースデイ

朝、ドラマの撮影に出かける私にいちごが声をかけてきた。

「あおい、仕事が終わったら、まっすぐ食堂に来てね」

「分かってるって。ここまで撮影順調だから、たぶん時間通りに戻ってこられると思う」

「みんなで待ってるから、頑張って」

「ありがと。じゃあ、いってきまーす」

「いってらっしゃーい」

スターライト学園に入ってから5年とちょっと、途中、いちごがアメリカに行っている間を除いて、ずっとこんなやり取りをしながらお仕事に行っていたけど、それももうすぐ終わってしまうんだ。このところ、何をするにしても、この学園での「最後の行事」になってしまうことばかりで、ちょっとだけ寂しい。今日も、そんなイベントの一つがある。

2

さて、現場に着いたのだけれど、こんな時に限って、機材トラブルで撮影開始が少し遅れてしまった。さっき撮影順調って言ったばかりなのに、これがフラグって奴なのかしらね。ドラマの撮影にはトラブルはつきものとはいえ、ちょっと気が急いてしまう。……まあでも、この分なら、約束の時間には十分間に合うかな。

「みんなちょっと集まってくださーい」

お昼の休憩時間、珍しく現場にやってきていたプロデューサーさんにこう呼びかけられて、私も含めたキャストとスタッフが周りに集まってきた。

「今日は、他でもない、我らがドラマの主役、霧矢あおいさんの誕生日です。おめでとう、あおいちゃん」

「あ……ありがとうございます」

突然のことで、一瞬戸惑ってしまったけれど、お礼を言いながら深々とお辞儀をした。

――ぱちぱちぱちぱち

「ささ、あおいちゃん、こっちへ。……えーと、これは、私たちスタッフとキャスト一同からです」

そう言って、ディレクターさんが花束を渡してくれた。

「わあ、嬉しいです。ありがとうございます」

……と、そんな感じで、誕生日を祝ってもらってしまった。

3

うれしいサプライズのおかげか、午後の撮影は至って順調に終わって、スタジオを後にした。さて、学園の車が待っているはずだけれど……。

「ヘイ、霧矢ハニー!」

運転手の代わりにそこに居たのは、ジョニー先生だった。

「ジョニー先生!?どうしたんですか、こんなところで」

「スター宮から『あおいを学園までエスコートしてきてください』って頼まれてな、こうしてやってきたって訳だ」

「そうだったんですか。すみません、いちごが変なお願いをしてしまって……」

「なに、ちょうど退屈してたところだから、遠慮はノンノン、ノープロブレムだ。それに、今日は霧矢ハニーのバースデーなんだろ?それなら、スターライト学園最高のティーチャーにして、最高のドライバーである俺が、エスコートしてやらないとな」

「あはは、お手柔らかにお願いします」

アイカツワゴンの後ろに乗せられて、学園までの道を走り始めた。

「しかし、霧矢ハニーたちも、もう卒業か。スター宮と一緒にスターライトに編入してきたのが、ついこの間みたいに感じるけどなあ」

運転をしながら、ジョニー先生が話しかけてくる。

「ええ……。でも、私は、この5年間、一生懸命アイカツして、そしてその間にいろんなことがあったから、長かったような、それでいて、あっという間だったような……そんな気がします」

「そうか。……まあ、確かに、お前たちが来てから、本当にいろんなことがあったしな。神崎ハニーが学園を辞めたり、スター宮がアメリカに行ったり、その間にドリアカができたり……な」

「はい」

「お前たちの学年は、手のかかる奴らばっかりで苦労したけどな。特にスター宮とかな」

「本当にすみません……」

「いやいや、霧矢ハニーが謝ることじゃない。むしろ、最近は霧矢が学園ことをいろいろとサポートしてくれているから、俺たちティーチャー一同も感謝してるくらいさ」

「そ、そうですか?」

「そうさ。……まあそれに、スター宮がいて、この5年、ずっと退屈せずに済んだしな」

「その気持ち、何となく分かります」

「出来の悪い子ほどかわいい、とか言うしな。……もっとも、そのスター宮が、大スター宮いちご祭り以来、ずっとスターライト学園……いや、アイカツ界のトップを張ってるんだから、出来が悪いとか言っちゃいけないんだけどな」

「まあ、いちごは、いちごですからね」

そうこうしているうちに、学園の通用門が見えてきた。

「さ、もうすぐ着くぞ」

「ありがとうございました、ジョニー先生」

4

そのままジョニー先生に連れられて、学園の食堂まで来た。先生に、扉の前で制止される。

「霧矢ハニーは、そこで待っていてくれ」

すると、ジョニー先生は、そのまま扉を少し開け、スルっと中へ入っていった。

「さあ、レディースエンドジェントルメン、今日の主役の登場だ、イエー!!」

――バンッ!

扉が開くと、中には同級生たちが並んでいた。私は一歩前へと進む。

「「「おめでとう、あおい!」」」

みんながそう言うと、手に手に持ったクラッカーの紐を引いた。

――パン、パパパパン、パン

空中に舞い飛ぶ紙テープの中をくぐりながら、私は食堂に入っていった。

「みんな、ありがとう!」

すると、いちごが私の目の前にやってきた。

「さあ、あおい、こっちに来て」

そう言うと、私の手を引っ張って、大きなケーキの前へと連れて来た。上には、火のついたロウソクが18本立っていた。

横からおとめちゃんが出てきて、音頭を取り始めた。

「それじゃあみんな、あおいたんのために歌いましょう。せーの」

――ハッピバースデーツーユー

――ハッピバースデーツーユー

――ハッピバースデーディアあおいちゃーん

――ハッピバースデーツーユー

「ふーーーーー」

私は息を吹きかけて、18本のロウソクを吹き消した。

――ぱちぱちぱちぱち

拍手の中、みんなに向けて深々とお辞儀をする。

「今日は、あおいのために、特別ゲストに来てもらったんだ。ほら、あそこ」

いちごの指さした先を見ると、そこには周りより一段高くなった即席のステージが作られていた。そのステージの上に、こちらを背にして立っている女性が一人。髪は茶色でツインテール、コスチュームはフューチャリングガール……まさか!!

――さんさんさん、輝く太陽ー

――真夏のバケーションサマーバケーション!!

振り向いたのは、あの文化系サブカルアイドル・グッピー!!

「ヤッホー、あおいちゃん、誕生日おめでとー!!」

前奏に入ったところで、そう呼びかけてくれたので、私はもうテンションマックスで、ステージの前まで駆け寄ったのだった。それから、曲の間のことはあまり良く覚えてない。

5

メドレーで数曲歌い終わった後、グッピーはステージから降りてきて、私の前にやってきた。

「あ、あの、グッピーさん、初めまして」

私がそう言うと、目の前のグッピーさんは意外なことを言ってきた。

「初めましてじゃないよ、あおいちゃん」

「え?」

「前にサイン会に来てくれたことがあったでしょ、まだ、こーんなに小さかったころ」

「それって、だいぶ前だし、私がアイドルになるずっと前のことなのに、覚えててくれたんですか?」

「うん、グッピーは記憶力がいいのだ。グッピーに会いに来てくれたファンのみんなの顔は、よーく覚えてるよ。それに、あおいちゃんは、グッピーに熱心にファンレターを送ってくれてたでしょ。だから、尚更覚えてるのだ!」

「うわあ……すごく感激して、穏やかじゃないです!」

「うんうん」

「私、グッピーさんにあこがれて、こうしてアイドルになれたので、こうしてアイドルになった姿を見せることができて、本当にうれしいです」

「そうよねえ、グッピーは、あおいちゃんがアイドルになる少し前に、グッピー星に帰っちゃったもんね」

そう、グッピーさんは、グッピー星に帰った……つまり、かつてのキャラを封印して、今では「世を忍ぶ仮の姿」として、本名で芸能活動をしている。主に女優やナレーションのお仕事をされているけれど、その落ち着いた雰囲気は、グッピーとのギャップもあって、当時、驚きと好評をもって迎えられた。でも、意外と私とは仕事上の接点がなくて、こうして会うのは件のサイン会の時以来だった。

「ところで、今日はどうして来てくださったんですか?」

「この間、いちごちゃんと一緒に、世を忍ぶ仮の姿でお仕事をする機会があってね、すぐに意気投合しちゃったんだ。それでね、いちごちゃんとあおいちゃんが仲良くなったきっかけがグッピーだったこととか、今日あおいちゃんのお誕生会だってことを聞いてね、いちごちゃんに是非来てくれって言われて。それで、こうしてグッピー星から来ることにしたんだ。あ、噂をすれば影」

いちごが私たちのところにやってきた。

「いちごー!!ありがとー!!学園での最後の誕生会で、こんなすごいプレゼント貰っちゃって、私、穏やかじゃなさすぎるよ!!」

「良かった、喜んでもらえて。……グッピーさんも、今日はありがとうございました」

「いえいえ、こうして、グッピーの姿で歌を歌うのも、本当に久しぶりだから、すっごく楽しかったよ。こうして、目の前で喜んでくれる人がいると、年一回くらいは、こうやってグッピー星から地球に来て、ファンのみんなと交流するのもいいかもしれないなあって思ったよ、あおいちゃん」

「わあ、そうなったら、私もファンとしてすごくうれしいです」

「そうだ、あおいちゃんって、フューチャリングガールにも顔がきくし、アイドルのプロデュースもいろいろとやってるんでしょ?」

「はい」

「じゃあ、今度、交流イベントを企画してくれないかな?うーんと、題して、『グッピー・ファン・ミーティング』みたいな感じ?」

「えっ、ホントですか?」

「うんうん」

「やったー、すごくうれしいです!」

「じゃあ、話がまとまったところで、もう一曲歌おうか。今度は、あおいちゃんと、そして、いちごちゃんも一緒にね」

そう言って、グッピーさんはウインクした。

「はい、喜んで!……いちご、振り付け覚えてる?」

「えーと、こうだっけ?」

「違う違う、もっとミニマルに……こう!」

「こう?」

「こう!」

私がいちごに厳しく振付の指導をしていると、おとめちゃんがやってきた。

「あー、おとめもやるですー!!」

こうして、楽しい誕生会は、ますますたけなわとなっていったのでした。

 

恋色エナジー ~ 解説

恋色エナジー 作品解説 アイカツ! アイカツ!二次創作

本編はこちら:

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恋色エナジー

恋色エナジー アイカツ! アイカツ!二次創作

恋色エナジー

「あのね、あかりちゃん……。私……前からずっと……好きだったみたい……」

大空あかり、14歳。いきなりの恋の告白にドキドキです……。

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大空あかりの「恋色エナジー」と「God Save The Girls」について

アイカツ! アイカツ!二次創作 作品解説

久々にニコ動に動画を上げたので、その解説。

www.nicovideo.jp

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 いわゆる中の人つながりMADという奴です。

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氷上スミレと大きな椅子 ~ 解説

氷上スミレと大きな椅子 作品解説 アイカツ! アイカツ!二次創作

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氷上スミレと大きな椅子

氷上スミレと大きな椅子 アイカツ! アイカツ!二次創作

氷上スミレと大きな椅子

次は私が話す番ね。……じゃあ、こんなお話はどうかな。

あかりちゃん、ひなきちゃん……二人は覚えているかな。私たちがスターライト学園に入学したてのころ、この寮の大浴場の休憩室に、大きくて立派な椅子があったことを。……うん、そうね、あの年の秋になる頃にはもう無くなっていたから、珠璃ちゃんや、凛ちゃん、まどかちゃんは見たことがないはずよね。……うふふ、凛ちゃん、まだ何も話してないんだから、そんなに怖がらなくても。

……これから話すのは、とある先輩から聞いた、その椅子にまつわるお話。これが最近の話なのか、それとも、ずっと昔の話なのか、それは私にも分からない。でも、その先輩が言うには、これはどうやら本当にあった話みたい。

ある年の春、このスターライト学園中等部に、一人の女の子が入学してきたの。その子は、あまり人づきあいが得意じゃなかったみたいで、この学園に入ってからも、しばらく周囲とは馴染めずに、一人でいることが多かったみたい。レッスンはほとんど一人で受けていたし、土曜日日曜日はもっぱら、図書館で本に囲まれて過ごす日々だった。まだ駆け出しの新人アイドルだったから、週末に仕事が入ることもほとんどなかったしね。

……その日も、彼女は一人で図書館に行って、一日中いろいろな本を読んで過ごしていたのだけれども、日が沈んで薄暗くなり始めたころ、読み終わった本を本棚に戻していると、ふと、開架書庫の隅の方の奥まったところにある本棚の、さらにその一番奥の一番下の段の……つまり、いちばん人目につかないところに仕舞われた、一冊の分厚い本に目が止まったの。その本は、表面が牛皮のような素材で覆われていて、背表紙には金箔で押した文字がきらめく立派なものだった。彼女は、そういう少しアンティークな雰囲気の物が好きだったので、迷わずその本を棚から抜き取り、手に取った。表紙を見ると、背表紙と同じように金箔で立派な装飾がされていたので、彼女は期待に胸を膨らませて表紙を開いたの。……でも、そこに本来あるはずのページは無く、代わりにあったのは、四角くくり抜かれた空洞と、そしてそこに収められた、奇妙に先っぽが枝分かれしている……一本の鍵。そう、その立派な本に見えた物は、本に偽装された小物入れだったわけ。

鍵を手に取って、こう、くるくると回して、いろいろな角度から眺めてみる……。誰がどんな理由で、こんな小物入れを用意して、その中にこの鍵を入れて、図書館のこんな目立たないところに置いたのかは、彼女にも分からなかった。……でも、鍵を回して眺めているうちに、この鍵の奇妙な先端の形状について、ちょっとした心当たりがあることに気付いたの。だから、その心当たりが正しいのかどうかを確かめるため、彼女は鍵を懐に入れて、空になった本を元の場所に戻してから、閉館時刻間近の図書館を後にした。

その日の夜、みんなが寝静まったころ、彼女は一人、部屋を抜け出した。……彼女にはルームメイトが居なかったから、夜遅くでも気兼ねなく部屋を出ることができたの。そして向かったのは……大浴場の休憩室。中に誰もいないのを確かめると、彼女は休憩室に入り込み、例の大きな椅子のところまでやってきた。

あの椅子は、一人掛けのソファーのような形をしたもので、少々くたびれてはいたものの、表面は全面にモケット生地が張られていて、座面はフカフカして非常に座り心地が良かったし、分厚い背もたれとがっしりとしたひじ掛けが備わった、非常に大きくて立派なものだったけれど、学園の寮の、それも大浴場の休憩室に置くには、ちょっと場違いな雰囲気のものだったわね。私が聞いたところによると、あの椅子は、もともと四脚一組で、学園長室で応接に使われていたものだったのだけれども、他の三脚が壊れてしまい、残った一脚だけ、捨てるのも忍びないということで、紆余曲折あって休憩室に置かれることになったらしい。

彼女は、その立派な椅子の背後に回りこんで、しゃがみこんだ。椅子の背もたれの後ろ側に張られた板の下の方に目を向けると、そこには奇妙な形をした溝が彫られている。さっき図書館で鍵を見つけた時、その鍵の先端の奇妙な形と、この椅子の裏に彫られた溝の奇妙な形とが附合していることに、彼女は気づいたの。……彼女はいつもリボンを髪に結んでいたのだけれども、ある時、お風呂から上がって休憩室で一息ついた後、この椅子に座ってリボンを結ぼうとしたところ、扇風機の風に飛ばされて、そのリボンが椅子の後ろに落ちてしまったことがあったの。リボンを拾い上げようと、椅子の背後に回った時、偶然この溝を見つけて、その奇妙な形がずっと心の片隅に残っていたみたいね。

彼女は懐から先ほどの鍵を取り出すと、椅子の溝に差し込んだ。全く引っかかったりすることなく、スムーズに吸い込まれていく。そして、鍵の軸が一番奥にぶつかったところで時計回りに一回転させると、カチリという音がしてから、椅子の後ろの板が、すうっと観音開きの扉のように手前へと開き始めた。その開いたところから椅子の中を覗き込むと、そこは空洞になっていて、よく見ると、空洞の床には小さな座椅子のようなものが据え付けられており、少し窮屈な姿勢になるけれど、小柄な人ならそこに座れるような設えになっていた。試しにそこに座ってみると、横にはレバーのようなものがあって、これを前後に動かすと、中から背面の観音扉を開けたり閉めたりできるような仕掛けになっていたの。

……その時、休憩室の外から足音が近づいてきた。彼女は思わず観音扉を閉め、そのまま出るに出られず、しばらく椅子の中で息をひそめることにした。入ってきたのは二人組で、休憩室をそのまま通過して大浴場の脱衣場へと入っていった。休憩室に人の気配がなくなったことを確かめてから、彼女は椅子から這い出し、扉を閉め、元のように鍵を掛けた。そうして、脱衣場の方を窺うと、二人の会話が聞こえてきた。会話の内容から、どうやら、この二人は高等部でもトップの人気を誇っている先輩たちだというのが分かった。二人とも仕事で遅くなり、こんな時間にお風呂に入ることになったみたい。

二人に気付かれないよう、彼女はそのまま休憩室を後にしようと出口の方へ向かって歩きだしたのだけれども、二三歩進んだところで立ち止まり、何を思ったのか、再び椅子の裏へ回り込むと、鍵を開けて、もう一度椅子の中へ忍び込んだの。どういう心境でそんなことをしようと考えたのか、彼女自身もよく分からなかったようなのだけれど、本人の感覚としては、何か良くわからない魔力のようなものに引き寄せられて、いつの間にか椅子の中に吸い込まれていた……というのが正しいみたい。

20分くらい椅子の中で息をひそめていると、先ほどの二人がお風呂から上がり、休憩室にやってきた。他愛もない、でも、仲のよさそうな会話をしながら近づいてきて、そのうちの一人が、彼女の潜んでいるあの椅子に腰かけたの。あの椅子は、人が座ると座面や背もたれが絶妙に沈み込むようになっていて、それが座り心地の良さの秘密だったのだけれども、一方でそれは、中に入った人からは、椅子に座った人間の重みが程よく感じられるように考えられた作りでもあったみたい。まだアイドルとして駆け出しの彼女にとっては、この二人は、まさに雲の上の存在だったのだけれども、そんな、普段なら話すこともままならないような先輩アイドルの重さやぬくもり、体の柔らかさ、しなやかさ、そして、声の振動が、座面のモケットを通して自分に直接伝わってくる……その感触が、彼女に何とも言えない快楽をもたらしたわ。

そうして、その夜の経験が癖になってしまい、彼女は、この大きな椅子の中に潜んでは、誰かが椅子に座るのを待つのが日課のようになってしまったの。最初のうちは、狭い椅子の中にずっといると体がしびれてしまい、外に出るとしばらく動けなくなっていたから、あまり長い間入っていることができなかったのだけれども、そのうち体の方が柔らかくなって、椅子の中に何時間でもいられるようになった。そうして毎日毎日、いろんな人が自分の上に座るのを、彼女はまさに身をもって体感しつづけたの。ある時は、モデルとして有名な先輩のスリムな体つきに感心し、またある時は、彼女がまだ学園に入る前に家族と一緒に見ていたドラマの主役を演じている先輩の生の声を間近で聞くことができて感激したり……。あの椅子の中に入りさえすれば、布一枚を隔てて、憧れのあの先輩やこの先輩と密着することができるという愉悦。彼女は、人づきあいは苦手だったけれど、別に他人が嫌いというわけではなかったので、人恋しさをそれによって紛らわせていたという側面もあったのね。

もう一つ、彼女が楽しみにしていたのは……そこで行われる会話を聞くことだったの。まさか、椅子の中に人が入っているなんて誰も思っていないから、他に誰もいないと思って、普段親しい人にしか見せないような姿を見せる生徒たちも当然いたわけ。テレビでは男勝りでクールなイメージの先輩が、仲良しの友達と一緒にいるときには可愛らしい女の子のような側面を見せたりとか、人には言えない意外な趣味を持っている先輩がいたりとか……。あと、スターライト学園は女子校だから、その……女の子どうしで恋人になっちゃう人たちもいて、半ば公然のカップルもいれば、中には意外なカップルがいたりとか……。彼女は椅子の中から、自分の知らないような新しい世界への見聞を広めていったわ。

そうやって、いろんな人に椅子ごしに腰かけられていた彼女だったのだけれども、そんな中で、ある一人の女の子のことが気になりだしたの。その女の子は、彼女と同じ学年の生徒だったのだけれども、クラスが違ったので面識はなかった。でも、毎日ほとんど同じ時刻にやってきて、同じようにあの椅子に座るので、彼女は次第に、その女の子に奇妙な親近感を抱くようになっていったの。

そうして三ヶ月くらいが過ぎたころ、彼女が椅子の中で待っていると、いつものようにその女の子がやってきて椅子に座ったのだけれども、どうも元気がない様子だったの。……もうそれくらいの期間、こういう奇妙な関係を続けていると、上に座っただけで、今日は機嫌がいいみたいだとか、今日は落ち込んでいるみたいだとか、彼女にはそういうことが手に取るように分かるようになっていたの。女の子は大きなため息をついて、ただ一言、つぶやいた。

――どうして私、こんなに頑張っているのに、ダンスも歌も全然うまくならないんだろう……

ってね。この学園の初年度の生徒にありがちな壁にぶつかっていたみたい。でも、椅子の中の彼女には分かっていたの。きっと、女の子はその壁を乗り越えられる……って。毎日毎日、椅子の中からこの女の体の感触を確かめていたので、最初の頃は華奢な体つきをしていた女の子が、この三ヶ月間で少しずつ、でも着実に訓練を重ねていたおかげで、だんだんと体が出来上がっていっていることを、本人よりも椅子の中の彼女の方が良く分かっていた。その時、彼女は、いっそ椅子から飛び出して行って、女の子を抱きしめて励ましてあげたい、とすら思ったのだけれども、それは思いとどまって、ただ愛おしさを胸に押しとどめて耐えることにしたの。……はたして数日後、今度は上機嫌になった女の子がやってきたので、椅子の中の彼女にもそれが伝わって、まるで自分のことのように喜んだわ。

さて、そうなると、彼女には何というか、少し、欲のようなものが出てきてしまったの。こんな椅子の中からではなくて、その女の子と、外の世界で仲良くなれないかな……ってね。でも、最初にも言ったとおり、彼女は人づきあいが苦手だったから、どうすれば仲良くなれるのか分からなかったの。だから、彼女はとりあえず、その女の子のことをずっと観察することにしたの。あの椅子の中はもちろんのこと、床下や、天井裏から……。ずっと椅子の中で過ごしているうちに体が柔らかくなったので、彼女はまるで猫のように、建物の狭い隙間でも入り込めるようになっていたの。……え?そんなことできるのかですって?この寮は、クローゼットの中の天井が外れるようになっていて、桟と桟の間の狭い隙間を抜けられれば、天井裏に上がれるのよ。知らなかった?……ひょっとしたら、今もそこの天井に誰かが……ふふ、冗談よ。点検用にそうなっているだけなので、普通なら、頭を入れて覗くのがやっとの隙間なのだけれども、彼女は、そこを抜けられるようになっていたの。

でも……ある夜のこと。彼女は、いつものように天井裏に潜って、その女の子が眠るのを見守ってから自分の部屋へと戻ろうとしたのだけれども、その時、足の置き場を間違えて、屋根裏に通っていた雨どいのパイプを踏み抜いてしまったの。……それ自体は大したことではなかったのだけれども、物事というのは、こういう小さなところからケチがついていく物なのかもしれない。彼女は、何か縁起が悪いような、嫌な予感がしたみたい。

次の日、その予感は的中することになる……。いつものように彼女は大浴場の休憩室に入ったのだけれども、そこでは異変が起きていたの。いつもそこに置いてあった、あの大きな椅子が、休憩室のどこを見回しても見当たらない……。代わりに置かれていたのは、真新しくて、シンプルで……はっきり言ってしまうと、少し味気ない……ソファーとテーブルだった。そう、現在あの休憩室に置かれている物よ。……彼女はその変わり果てた休憩室の様子を見て、あの大きな椅子に何が起こったのか悟ったの。今頃は多分、ごみ処理場で変わり果てた姿になっている……。そのまま、何分か、何十分か分からないけれど、茫然とそこで立ち尽くしていたみたい。そして、休憩室に数人の生徒がおしゃべりをしながら近づいてくる気配を感じたところで我に返って、そのまま自分の部屋に戻ったの。

それからの彼女は、しばらく何をやっても上の空で、死んだように腑抜けてしまったの。彼女としては、もはや、あの椅子の中でたくさんのアイドルと触れ合って過ごす時間が、何物にも代えがたい大切なものとなっていたのね。そして……あの女の子との縁も、何故だかこれで切れてしまったような気がしていたみたい。

……はい、私のお話は、これでおしまい。……あれ、みんな、何か腑に落ちない、っていうような顔をしているわね。そう、このお話にはオチがないの。あの大きな椅子に、誰がどんな目的でそんな細工をしたのかも、その椅子の鍵を、誰がどんな目的で図書室に隠しておいたのかも、この話を教えてくれた先輩は教えてくれなかったの。……というよりも、その先輩も知らなかった様子だったのだけれど。でも、よく考えてみて欲しいのだけれども……私たちがずっと使っている椅子の中に、もしも、人が入っていたら……そう考えたら、それだけで怖くなって来ない?

……そうそう、一つだけ話し忘れていたことがあったわ。この後、彼女がどうなったのかというと……不思議なことに、一週間くらい経ったころ、どういう訳だか、例の女の子とルームメイトになっていたの。……本当に不思議なこともあるものよね。人の縁って、不思議。

やっぱり、みんな腑に落ちないって顔をしているわね。……あら?まどかちゃん、どうしたの?あなただけ顔が真っ青だけど……。

まどかちゃん、大丈夫よ。何も怖がることなんてないわ。

これは、ただのお話なんだから……。ね?