読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

AoiMoeのおはなし

アイカツロス症候群のリハビリ活動二次創作

あおいの餌付け大作戦!

あおいの餌付け大作戦!

「ほんじゃ、行ってくる。いちごにはよろしく言っといてくれ」

「わかった。蘭、気を付けて行ってきてね」

その日の夕方、海外ロケで一週間部屋を留守にする蘭を見送って、玄関の扉が閉まるのを見届けた後、リビングでお茶を飲んでいたら、しばらくして、再び玄関の扉が開いて閉じる音が聞こえた。

「うー、ただいまー……」

いちごの声だ。

「おかえり、いちご……って、どうしたの、その手!?」

リビングに入ってきたいちごを見ると、左手には包帯が巻かれていた。

「聞いてよ、あおいー。今日の収録で、バスケットボールの試合に参加するってコーナーがあったんだけど、そこでボールを取り損ねて、突き指しちゃったの」

「うわあ、痛そう……。それで、怪我の具合はどんななの?」

「うん、骨には異常がなくて、ただの突き指だから、一週間くらい固定しておけば包帯が取れるって」

「よかった……。でも、手が使えないとなると、いろいろ不便よね」

「まあ、利き手じゃないからまだマシなんだけど……。でも、しばらくはまともにお料理ができないかな」

「そっか。ってことは、≪いちごにおまかせ!クッキング≫は大丈夫なの?」

ちなみに、≪いちごにおまかせ!クッキング≫は、平日のお昼前にやってる帯番組なんだけど、毎回いちごが料理を作ってそれを自分でおいしそうに食べるところまでがワンセットで、今ではいちごを代表する冠番組の一つになってるんだ。

「うん、こないだ貯め撮りしたばっかりだから、しばらくは収録がないんだ」

毎回一人で食べてるのに貯め撮りってどうなのかしらね、と、ちょっと思った。

「でね、たまたまスケジュールも空いてるし、お仕事の方は問題ないんだけど、手が治るまで家のご飯の用意ができないなって思って……」

私たちが三人で暮らすようになってから、朝食と夕食は基本的にいちごが作っている。……私と蘭の名誉のために言っておくと、二人とも人並みに料理はできるのよ。でも、いちごは自分で料理がしたくてしたくてたまらない子なので、いちごが居るときは彼女が自然と全員のご飯を作ることになったって訳。

「じゃあ、いちごの怪我が治るまで、私がご飯を作ってあげるわ」

「ごめんねー、あおいー」

「何言ってるの、いちごが謝ることじゃないでしょ」

というわけで、しばらく二人分のご飯を私が作ることになった。

2

さて、今日の夕飯どうしたものか。いちごは左手が使えないから、簡単に食べられるものがいいかな。

(ガパッ)

炊飯器のふたを開けたら、今朝炊いたご飯が、ちょうど二人分ぐらい残っていた。となると……。

野菜室の中にあった玉ねぎと生シイタケを取り出して、それぞれみじん切りにする。

「チャーシューは無いから……このベーコンでいいか」

冷蔵庫にはスーパーの特売で買ってきたとおぼしきベーコンの切り落としパックがあったので、これも野菜に合わせた大きさに刻んでおく。

ひとまず下ごしらえはそれくらいにしておいて、汁物を作る。刻んだ生シイタケのうち、半分を鍋に入れて、さらに水と乾燥ワカメ、冷凍してあった輪切りの長ネギ、そしてゴマを少々入れて、火をつける。煮立ってシイタケに火が通ったら、火を消して、中華スープのペーストを少々入れて、塩こしょうで味を調えて、最後にゴマ油をちょっと垂らすと、中華風ワカメスープのできあがり。

次に、ご飯を耐熱容器に入れて、電子レンジで熱々に温める。その隙に、卵を2個割っておく。温まったご飯の器に卵を投入して、卵かけご飯の要領でご飯全体に卵をまぶしておく。

「下ごしらえはこれでよし……っと」

ここからは気を抜けないので、コンロの周りに食材からお皿まで全部用意しておく。

「えーと、中華鍋、中華鍋……。あった」

これを強火にかけて、油を多めに注ぐ。ラードがあればいいのだけれど、無かったのでベーコンの脂身のところを加えておく。十分温まったら、卵をまぶしたご飯を投入して、ヘラで十分にほぐした後、刻んでおいた食材を加え、火が通ったら塩コショウで味を調える。

「わあ、何かいい匂いするー」

リビングの方から、いちごの声が聞こえてきた。

皿に移して、冷蔵庫にあった常備菜の小松菜を彩りに添えれば、完成。

「いちごー、ご飯できたよー」

3

というわけで、今日の晩御飯は、チャーハンとわかめスープ。これらをダイニングテーブルに並べる。

「うわあ、おいしそう」

「ふふっ、見た目はちゃんとできたけど、味の方は保証できないかな」

「そんなことないと思うよ、だってあおいだもん」

「何それ……じゃあ、食べよっか」

「うん」

「「いただきまーす」」

と、言いつつ、私は手を付けずに、まずはいちごの反応を見ることにした。いちごは、ニコニコしながらスプーンを手に取って、チャーハンを掬い上げる。ご飯の一粒一粒が黄色い玉子の衣を纏い、油でツヤツヤと輝いた、熱々のチャーハン。スプーンの上に山盛りになったそれを口の前まで持ってきて、少しフーフーってした後に、いちごのピンク色のくちびるが開いて、パクっと口に含む。スプーンだけスルンと引き抜くと、いちごは口をモグモグさせて、ゴクンと飲み込んだ。

「おいしー!!」

ドキッ。

満面の笑みを浮かべながら、そう言い放ったいちごの様子に、何だか分からないけど、少しドキドキした。

「ご飯もパラッパラだし、味付けも完璧。すっごくおいしいよ、あおい」

「ふふ、よかった」

「ほら、あおいも食べて食べて」

そう促されて、私も一口食べてみる。……うん、我ながらよくできてる。

「ほらね、おいしいでしょ?」

「うん。……って、なんでいちごがドヤ顔?」

「えへへ……」

そんなことを言いながら、チャーハンを掬い上げてはどんどん唇へと運んでゆき、パクパクとおいしそうに食べるいちごの顔を眺めていた。

――本当においしそうに食べるんだな

――そうかなぁ

――いちごの家、お弁当屋さんだから

大昔、スターライト学園の食堂で、三人でそんな会話をしたのを思い出した。いちごはいつも、本当においしそうにご飯を食べるんだよね。さっきの≪いちごにおまかせ!クッキング≫も、みんなお昼前でお腹が空いてる時間帯に、いちごがおいしそうにご飯を食べるものだから、観てる人々の食欲が刺激されるのか、この番組がスタートする前と比べて、日本の平日のお昼ご飯の消費量が5%増えたとか、まことしやかに言われている。……そんないちごの姿は見慣れているはずなのだけれども、私がこの手で作ったご飯をおいしそうにパクパクと食べているのを見ていたら、いつもとは違った感情が芽生えてきた。

いつのまにかいちごの皿は空になっていて、最後の一口をモグモグとしていた。そして、

「あー、おいしかった!!」

と発したその顔は、トップアイドルがステージ上で見せる笑顔に勝るとも劣らないオーラを放っていた。

ドキンッ……!!

こ、これは……穏やかじゃない!!

「ねえ、いちご……はい、あーん」

そう言うと、私は自分の皿からチャーハンを掬って、いちごの口の前に持って行った。

「あーん」

パクッ

「んんー、おいしいー」

「ささ、もう一口どうぞ」

パクッ

「んんー」

……と、そんな感じで、自分の食べる量はそこそこに、いちごにチャーハンを食べさせては、その笑顔を噛みしめる私なのであった。

4

翌日からの私は、いちごにご飯を食べさせるのがひそかな楽しみになっていた。

「はい、いちご、今日の晩御飯は唐揚げよ!」

「わーい、パクッ、おいしーい」

「ささ、これも食べて食べて」

……

「今日の晩御飯は、ピーマンの肉詰めにしてみた」

「パクッ。あっ、肉汁がジュッて出てきて、熱いけど、すごく美味しい」

「ふふっ、良かった。あ、ご飯のお替りもたくさんあるからね、どんどん食べてね」

……

「今日の夕飯は、オムライス!」

「あ、ケチャップでハートが描いてあってかわいい!……パクッ、んーん、おいしー」

ケチャップライスが余ってるから、足りなかったらもっと作るからね」

……という風に、いちごが美味しそうに食べている姿を見つつ、「ああ、私の作ったご飯が、いちごの体の一部になっているんだなあ」なんて思いながら、私は得も言われぬ幸せな気持ちを噛みしめる日々を過ごした。

 

そんなこんなで一週間はあっという間に過ぎて行った。

「あおいー、みてみてー、包帯が取れたよー」

「どう?指はちゃんと動く?痛くない?」

「うん、全然平気。元通り」

「そっか、良かったね」

「うん!」

元通りになったいちごの左手を見て、もう私がご飯を作らなくていいのかと思うと、少し寂しい気持ちになった。

ガチャッ

「ただいまー」

「あ、蘭が帰ってきたみたい」

リビングの扉が開いて、蘭が入ってきた。

「ふう、ずっと飛行機に乗ってて疲れちゃったよ。二人とも元気だったか……って、え?」

蘭はいちごを見て、驚いたような顔をした。

「お前……いちごか?」

「何言ってるの、蘭。It's me! 正真正銘、星宮いちごだよ」

「いや、お前……たった一週間見ない間に、何でそんなに丸くなってるんだよ!?」

あ、ヤバ……。

……そう、この一週間、あまりにいちごが美味しそうにご飯を食べるもんだから、私も調子に乗って食べさせ過ぎちゃって、今や、いちごの体は、ぷにぷにのパツパツになっていた。カロリーの悲劇、再び。

「えへへ、その、ちょっと、ご飯食べすぎちゃって……」

「それはちょっと食べすぎたどころじゃないだろ……。おい、あおい、お前が付いていながら、どうしてこんなになるまで放って……って……。霧矢あおいさん。何で私から目を逸らしていらっしゃるんですか?」

「いや、あの、その、えへへ……」

「……いちご、あおい。怒らないから、正直に話してみな」

怖い、その笑顔が怖いよ蘭さん……。仕方なく、この一週間のことを包み隠さず話した。

「いーちーごー、あーおーいー、明日から、毎日グランド百周!!」

「「はひいいいいいい!!」」

というわけで、翌日から、鬼コーチ紫吹蘭が見守る中、いちごは痩せるために、私は罰として、毎日グラウンドを走らされたのでした。

「アイ!カツ!アイ!カツ!……ねえ、あおい」

「アイ!カツ!アイ!カツ!……何よ、いちご」

「アイ!カツ!アイ!カツ!……たまにはまた、あおいのご飯、食べたいなぁ」

「アイ!カツ!アイ!カツ!……んもう、しょうがないなあ、じゃあ今日も……」

「コラ!しゃべってないで真面目に走れ!二人とも50周追加!」

「「ひええええええええ」」