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AoiMoeのおはなし

アイカツロス症候群のリハビリ活動二次創作

あおいいちご

あおいいちご アイカツ! アイカツ!二次創作
注意事項

この≪AoiMoeのおはなし≫において、特に断りがない限り、設定はシリーズごとに独立しているので、この話の内容が他のシリーズの設定と矛盾していても、それはそういうものです。

あおいいちご

もうすぐ梅雨に差し掛かろうかという頃の話。仕事の帰りにいちごと一緒になったので、二人で寄り道をして、それぞれ服を何着か買った。夕刻、学園の寮の部屋に戻ってから、買った服を着て、見せ合いっこをしたのはいいのだけれど……。

「あれ……これ、どっちが私のリボンタイだっけ……」

私のベッドの上に無造作に置かれた二本のリボンタイ。どちらかが私ので、どちらかがいちごのなのは確かなのだけれど、全く同じリボンタイだから、混ざってしまうと、どれが誰のものなのか、見ただけでは区別がつかなくなってしまう。

「うっかりしてたなあ……。新しい服に夢中で、よく見ないでタイをどけちゃったから……」

まあ、どうせ同じものだし、どっちでもいいといえばどっちでもいいのだけど、と思いかけた時。

「あおい、ちょっといい?」

そう言うと、いちごは、二つあるタイのうちの片方を拾い上げて、しばらくじーっと眺めていたかと思ったら、おもむろに鼻を近づける。

「ちょ、いちご!?」

(すんすん)

「……うん、こっちがあおいのだね」

とっさにそのタイを奪い取る。

「ななな、何で匂い嗅いでるのよ!」

「えー、だって、見た目で分からないなら、匂いで区別するしかないじゃない」

自分でも嗅いでみたが、良くわからない。

「別に匂いなんてしないと思うけど……嗅いで分かるものなの?」

「うん、あおいの匂いなら、すぐに分かるよ」

「へ、へえ……。何か恥ずかしい……」

「そんなことないよ、だって、あおい、すごくいい匂いするし、あおいの匂い、私、大好きだよ」

(ぼっ)

「……あれ、あおい、顔が真っ赤だ」

「い、いちごがそんな恥ずかしいこと言うからでしょ!」

「でも、本当にいい匂いだったよ」

まだ言うかこの子は。

「うう……いちごのばかぁ!」

そう言って、私はベッドに突っ伏して顔をうずめてしまった。

「うわ、あおい、ごめん、そんなに恥ずかしかったんだ……」

「もう知らない知らない!」

「あおいー!!ごめーん!!」

(コンコン)

(がちゃっ)

 「いちごー、あおいー、一緒に夕飯食べに行かないか……って、うわ、どうしたんだ、二人とも」

2

「……と、いうわけ」

「そ、そっか、そんなことが……」

そう言いながら、うつむいて少し肩を震わせている蘭。……蘭め、笑いそうなのを我慢してるな。

「い、いやあ、だって、部屋に入ったら、あおいはベッドに突っ伏して、肩を震わせて泣いてる(?)し、いちごはそれを見ながら何かオロオロしてるし、何事かと思ってみれば……」

「別に泣いてた訳じゃないわよ……ただ、ちょっと恥ずかしくて、顔を上げられなかっただけ」

フォークでプチトマトを突き刺して、少し不満げに口に持ってゆく私。

「ごめんね、あおい……」

「それにしても、少しびっくりしたよ。だって、二人が喧嘩してるところなんて、一度も見たことがなかったし」

「喧嘩っていうほどのことでもなかったけどね……。でも、人に匂いを嗅がれるのがこんなに恥ずかしいなんて、自分でも少しびっくりしちゃった」

「そういうもんか?……でも、あおい、前にらいちにも『アイドルの匂い』がどうのこうのって言われて、匂い嗅がれてなかったっけ?」

あれ、そう言われてみると、そうかも……。

「ま、まあ、ほら、あれは『匂い』って言っても、本当の匂いじゃなくて、アイドルのオーラの話だから……」

咄嗟に誤魔化してしまった。

「ふーん、そういうもんかなあ。別にあたしは、匂いを嗅がれたから恥ずかしいとか、そういうのないけどなあ。ちょっといちご、あたしのこと嗅いでみ?」

「うん、いいよ」

そう言うと、いちごは食卓から立ち上がって、向かいに座っている蘭のほうに行って、すんすんと鼻を鳴らす。

「……な?(ドヤァ」

「何でドヤ顔」

「うん、蘭もいい匂い。なんか、肉じゃがみたいな匂いがする」

「……それって、これの匂いだろ」

そう言って、蘭は食卓の上の煮物鉢を指さした。

「あれ、そっか」

「……もう匂いはいいから、早くご飯食べちゃいなよ、いちご」

「はーい」

 3

かぽーん。

「ふー、極楽極楽」

二人だけしかいないので貸し切り状態になっている寮の大浴場。蘭は先に入ってしまったらしい。

「もう、いちごったら、何かジジくさい」

「だって、いいお湯なんだもーん」

「私には、少し熱めかも……。それじゃ、私、のぼせないうちに先に上がってるね」

「ほーい」

脱衣場に戻って、体の表面に付着した水分をぬぐう。体を拭き終わって、バスタオルを体に巻いて一息ついたところ、ふと、目の前の棚に置かれた物体に目が留まる。……いちごの抜け殻が、無造作に放り込まれている脱衣かごだ。

「ハイ、シグナライ、答えは、もっと~……」

浴室の方から、ゴキゲンないちごの歌声が聞こえてくる。まだしばらくは上がってこないみたい……。

「ごくり……」

手を伸ばして、かごの中から手探りで布を一枚取り出す。……フロントに小さなかわいいリボンのついた、パ……慌てて戻す。……今度は、少しかごを引き出して、中を吟味してみる。……かごの中で、ひときわ目立っていたのは、いちごの本体、リボンカチューシャ。……いや、本体じゃないけど。

その、熟したいちごのように真っ赤なカチューシャを手に取って、眺めてみる。

「いちご……」

そういえば、初めて会ったとき、浴衣を着て踊っていたいちごも、このカチューシャを着けていたっけ……。

「私、星宮いちご。あおいちゃん、またねー」

小学五年の夏休み、初めて話したいちご。そのころは、まだ≪いちごちゃん≫≪あおいちゃん≫だったけど、いつのまにか、≪いちご≫≪あおい≫になってた。……でも、まだ≪いちごちゃん≫だったころの、浴衣を着て、このカチューシャを頭の上に乗せて、くるくると回っていた三つ編みの女の子の姿は、今でもはっきりと思い出せる。

 手にしたカチューシャを、少しずつ鼻に近づける。その距離に反比例して、だんだんと鼓動が速くなっていくのが、自分でも分かる。

(すう……)

「あっ……」

いい匂い……。具体的に何の成分の匂いなのかはよく分からないけれど、甘いような、懐かしいような、切ないような、いとおしいような、そんな、いちごの匂いだ。

(とくん、とくん、とくん、とくん……)

全てが止まっている世界の中で、ただ自分の心臓だけが脈打っているような感覚に包まれる。

そのまま、どれくらいの時間が経ったのか分からないけれど、

(ざざーーーーーー)

という水の流れる音にビクッとする。もうすぐいちごが上がってくるみたい。あわててかごを元の状態に戻す。

(ガラガラガラ)

「ふいー、いいお湯だった。あおい、お待たせー……って、なんかあおい、すごく顔が赤いよ?大丈夫?」

「う、うん。ちょっとのぼせちゃったかな……。でも大丈夫だよ……」

「ホントに?無理しちゃダメだよ……あ、そうだ、扇風機持ってきてあげる」

そう言って、いちごは奥から扇風機を引っ張ってきて、スイッチを入れた。プロペラが回りだして、穏やかな風が、穏やかじゃないいちごの匂いを乗せてやってくる。ほのかな、石鹸の香り……。まだ当分、心臓のドキドキが収まりそうにないや……。

4

 「すう……すう……」

隣のベッドでは、静かな寝息を立てて既にいちごは眠りの底に落ちている。私の方は、ベッドに横になっていても、目が冴えてしまって眠れない。何で私、あんなことしちゃったんだろう……。

「いちご……」

手を伸ばせば届きそうな距離。でも、実際には、手を伸ばしたところで届かない距離。昔、いちごがアメリカに行ってしまった時には、それこそ、手を伸ばしたくらいでは到底届きそうにない距離にいたのだけれども、こんなことは全く考えたことがなかったな。考えてみれば、私たちも、いつまでもこうして一緒に居られるわけでもないし、いつかはまた、あの時みたいに離れ離れになってしまうのだろうか。そして、そのうち、お互いの距離なんて、全く気にしなくなってしまうのだろうか。それは、少しさみしいな……。

眠れないで悶々としていると、いろんなことを考えてしまう。

「いちご……」

思わず、また名前を呼んでしまった。

「うーん……あおい……」

えっ?

「あおい……私、もうこれ以上、食べられない……こともない。むにゃむにゃ……」

……なんだ、寝言か。びっくりした。幸せそうな顔で寝ている。いちご、どんな夢をみてるんだろう。

ふと、枕元から頭上を見上げると、窓の外には、オレンジ色の明るい星が瞬いているのが見える。……私にはいつも見えていた、いちごのアイドルとしての輝き。今では、あんなに高いところに上って明るく輝いて、誰もが空を見上げれば見つけることができるし、みんなを明るく照らしている。……私だってその≪みんな≫のうちの一人だ。いちごの照らす星明かりは、単なるアイドル好きだっただけの私を目覚めさせ、こうしてアイドルになるきっかけを与えてくれた。翻って、私は、いちごに、何かしてあげられたのだろうか……。

5

周りを見回すと、妙に高い天井、そして、壁面には赤や青の色鮮やかなステンドグラスがはめられていて、そこから太陽の光が室内を照らしている。……ここは、教会?

「さ、行こう、あおい!」

「えっ、いちご?」

そこには、白いひらひらとしたレースで全身をくるんだいちごがいた。

「い、いちご、どうしたの?ウエディングドレスなんて着ちゃって……」

「何言ってるの、あおい。今日は、私たちの結婚式でしょ。ほら、あおいもおそろいだよ」

下を向いて、自分の体を見回すと、私も、いちごと同じように、白いレースに包まれていた。手を顔に持っていくと、ベールのようなものに触れた。視線を正面に戻すと、微笑むいちごの顔があった。

「いちご、綺麗……」

改めていちごの全身を見回したあと、思わずそう言っていた。

「あおいも綺麗だよ……さあ、あおい、時間だよ」

そう言うと、いちごは私の手を取って、礼拝堂の中へと進んでゆく。

「あっ……」

バージンロードの両側のベンチには、ドレスで着飾った蘭やおとめちゃん、ユリカちゃんやかえでちゃん、その他、スターライト学園の人々が起立し、こちらを見ている。訳が分からないまま、いちごと並んで、しずしずとバージンロードを進んでゆく。

祭壇の前まで来ると、そこには神父さん……の恰好をした、ジョニー先生がいた。

「ジョ……」

と言いかけたところで、結婚式の最中だったことを思い出し、飲み込んだ。

「まずは、指輪の交換を」

いちごは、あかりちゃんから、わたしは、スミレちゃんから、指輪を渡される。左手の手袋を外し、いちごは私の薬指に、私はいちごの薬指に、指輪をはめる。

ジョニー先生扮する神父さんが、宣誓の言葉を流暢に唱える。

 「汝、星宮いちごは、この霧矢あおいを妻とし、良き時も悪き時も、健やかなる時も病める時も、富める時も貧しき時も、共に歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

「誓います」

「汝、霧矢あおいは、この星宮いちごを妻とし、良き時も悪き時も、健やかなる時も病める時も、富める時も貧しき時も、共に歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

「……」

戸惑っていちごのほうをちょっと見ると、ニコッと微笑んで、小さくうなずいた。

「……誓います」

そして、いちごは私のベールをめくりあげた。それを真似して、同じように、私もいちごのベールをめくりあげた。……あれ、これってひょっとして……。

「それでは、誓いのキスを」

え、えええーーーーーーーー!!

いちごは、私の腕を取り、顔を近づけてきた。

「ちょ、ちょっと、いちご、いちご、いちごーーーーーー!!」

6

「……い……あおい……起きて。朝だよ」

はっ、夢か……。そりゃそうよね……。目を開けると、目の前にはいちごの顔があった。

「う、うわあ、い、いちご!?」

見ていた夢が夢だったので、突然目の前にいちごの顔が現れて、思わず声を上げてしまった。

「あっ、あおい、驚かせちゃった?ごめんね」

「ううん」

「……なんかあおい、うなされてたみたいだけど、怖い夢でも見てたの?」

「……ううん、むしろ、幸せな夢」

「へー、どんな夢?どんな夢?」

「……内緒」

「えー、教えてよお」

「だーめ」

「ケチー」

窓からは、あたたかい陽の光が差し込んできている。口を尖らせて、ぶーぶー言っているいちごに向かって、はっぱをかける。

「ほらほらいちご、さっさと着替えて朝ごはん食べに行くよ」

「……はーい」

食堂に着いて、向かい合わせに座る。蘭は、朝早い仕事が入っていたらしくて、もう出かけてしまった後だった。

トーストに、ベーコンエッグとサラダ。そして、バターと、自家製のイチゴジャム。

「そういえば、もうこのジャムも、残り少なくなっちゃったね」

ジャムをたくさん掬ってパンにペタペタと塗りながら、いちごがそんなことを言ってくる。

「そっか、このジャム、春に私たちで作った奴だっけ」

「そうそう。イチゴがたくさん手に入ったから、砂糖で煮て作ったんだよね。あんなにたくさんの瓶に詰めたのに、もうこれ一つ」

「いちごがたくさん食べ過ぎなのよ」

「えー?」

「あのイチゴ、すっぱかったよねえ」

「うん。まだちょっと、緑色のところが残ってたしね。私はすっぱいイチゴに練乳を付けて食べるのも好きだけど、やっぱりジャムにしたほうがおいしいよね」

星宮いちごのイチゴジャムってわけね」

「あおいがあおいイチゴで作った奴ね」

「うふふ」

食事が終わって、紅茶を飲みながら、ふと、いちごに訊いてみた。

「……私たち、いつまで一緒にいられるかな」

「どうしたの?急に」

「んー、何となくね」

「そっか……。そうだなあ、むしろ、離れ離れになることの方が、想像できないかなあ」

「えー?そんなこと言ってるけど、いちごさん、あなた、中学二年のときに、急にアメリカに行っちゃいましたよね」

「そういえば、そうだった……。じゃあ、今度は、あおいも一緒に行こうよ」

「なあに?今度は、ヨーロッパにでも行くつもり?」

「んー、アジアのほうも面白そう」

「オーストラリアのエアーズロックをステージにするなんてどうかしら」

「蘭も誘ってね。……私ね、やっぱり、あおいと蘭がいたから、今まで頑張ってこられたと思うんだよね」

「そう?何か、いちごって、一人でもどんどん進んで行けそうに見えるけど」

「ううん、そんなことない。だって、あおいが美月さんのライブに連れて行ってくれなかったら、私は一生アイドルに興味が無かったかもしれないし、あおいがスターライト学園に誘ってくれなかったら、単なる美月さんのファンで終わっていたかもしれない。……あおいはね、私の道しるべなんだ」

「いちご……」

「昨日、夕方に二人で帰ってくるときにさ、歩きながら空を見てたら、まだ夕焼け空で結構明るかったのに、ちょうど正面に、青白くて明るい星が見えたんだ。その星を見てたら、何かね、『ああ、あの星、私の進んでいく道を指し示してくれていて、あおいみたいだなあ』って思ったんだ」

「……そっか」

「だからね、私は、あおいとずっと一緒にいたいな。それこそ、結婚しちゃいたいくらい!」

「えっ!?」

「もちろん、冗談だけどね」

「んもー」